科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 さきがけ研究「ナノと物性」領域 研究者
大岩 顕 氏
ナノ強磁性半導体におけるスピン注入磁化反転の研究
スピントロニクス研究において、強磁性は不揮発性素子や磁気抵抗効果素子などの実現に欠くことのできない性質である。こうした素子の低消費電力化や集積化などの必要性から、外部磁場を使わずに強磁性体の磁化方向を制御する手法が近い将来に基盤技術として重要になると考える。そこで我々の研究では光学/電気的手法によりキャリアスピンを操作してIII-V族磁性半導体の磁化反転制御を目指している。III-V族化合物半導体に磁性元素を添加したIII-V族磁性半導体は、キャリアと磁性元素の間の交換相互作用を介して強磁性を発現し、磁性制御が可能な材料として注目を集めている。この交換相互作用がキャリアスピン操作による磁化反転に重要な役割を担うと考えている。
これまでの研究から以下の成果が得られている。光学的スピン注入の研究では、III-V族磁性半導体(Ga,Mn)As薄膜に円偏光を照射してスピン偏極正孔を生成すると、スピン偏極に応じた方向に磁化が回転する現象を観測した(図1a)。フェムト秒パルスレーザーを用いた時間分解磁気光学効果測定では、円偏光励起直後、磁化回転の信号がパルス幅(〜150 fs)程度で極めて速く立ち上がることを見出し(図1b)、高速光誘起磁化回転の可能性を示した。一方、電気的制御では、(Ga,Mn)Asトンネル磁気抵抗効果素子を作製し(図2a)、反転層へ正孔を注入すると、部分的ではあるが磁化が反転することを示唆する結果を得た(図2b)。反転電流密度(105−106 A/cm2)は金属強磁性体の研究で報告されている値よりも1〜2桁低い。こうした結果はスピン注入磁化反転材料としてのIII-V族磁性半導体の可能性を示唆するものである。
今後は、III-V族磁性半導体における光学/電気的スピン注入磁化反転の確立と反転に要する光強度や電流密度の更なる低減を目指す。また磁化反転ダイナミクスの理解と制御は興味深い課題である。



